自転車を使い狭山茶の移動販売に挑戦!
埼玉の若き茶農家『西沢園』4代目の姿を追った

とにかく目の前のことに一所懸命に取り組む。どこか職人のような雰囲気を醸し出す西澤陽介さん(28)。狭山茶の主産地である埼玉県入間市で茶業を営む『西沢園』の4代目だ。
現在、西澤さんの両親と祖父母と共に親子3代で『西沢園』の茶園と店を守っている。
入間市をはじめ狭山茶の産地では、自ら栽培した茶を製茶し、販売まで一貫して行う自園・自製・自販という形態をとるお茶屋が多く、西沢園も栽培から販売までを家族一丸となり行っている。

西沢園4代目の西澤さん

 

西澤さんは、お茶の収穫時期には茶園で収穫作業を行い、工場で製茶作業に勤しむ。そして、空いた時間を見つけては店頭に立ち、接客し、お客さんに直接お茶を販売している。そんな西澤さんが丹精込めて製茶・販売するお茶を求めて、お客さんが訪れている。
「自分で作った茶葉は、どうしても自分の手で売りたい」とスーパーや百貨店への卸売販売はせずに、店頭販売とインターネット販売にこだわっている。

 

“お客さんの顔を見て、自らの手で丁寧にお茶を売る“

 

このお茶屋としてのひたむきな姿勢が、新たなチャレンジに繋がる。

接客時にいつも笑顔を絶やさない西沢さん

狭山ちゃりんこで狭山茶の魅力を発信

 

『西沢園』を訪れるお客さんは比較的年配者が多い。
そのお客さんをもっと大切にしたいという思いから生まれた、ユニークなお茶の販売手法が話題を集めている。
自転車を使った狭山茶の移動販売、その名も「狭山ちゃりんこ」だ。

狭山ちゃりんこは荷台に冷蔵庫も完備

狭山ちゃりんこ開発のきっかけは、90歳のおばあちゃんがタクシーを使って『西沢園』まで通っていたこと。
「おばあちゃんは、家の近くのスーパーで売っているお茶ではなく、西沢園のお茶を飲みたいとずっと通ってくれているお客様でした。でも雨が続くなど、なかなか外に出られない日が続いて、1週間もお茶がない生活をしていたと聞いた時に、わざわざ店まで買いに来てくれる気持ちに応えられることはないかと考えるようになりました」と西澤さん。

 

そんな時、ふと思い出したのが小さい頃に家の近くに来ていた焼き芋屋の存在だった。食べたい時に焼き芋を運んできてくれた移動販売というスタイルに着目して、自転車でお茶を販売しようと思いついたという。

お茶を積んで市内を駆け巡る西沢さん

「自転車で街を走ることによって、狭山茶のことを入間市の人に知ってもらい、お茶に興味を持つきっかけに少しでもなればいいなと思っています。それを見た子どもたちが大人になった時に『地元にはちゃりんこでお茶を売っている人がいたんだよ』って言ってくれたら、狭山ちゃりんこは成功だと思います」

 

4、5月の新茶時期を除き、自転車にお茶を積んで週に1回のペースで入間市内を走る。店を出発して1時間半から2時間ほど、「ちり~ん、ちり~ん」とベルを鳴らしながら、ルートは決めずに各地を巡るそうだ。狭山ちゃりんこは電動アシスト自転車だが、計100kg近い負荷がかかる自転車をこぐのはそう簡単ではない。

狭山ちゃりんこの噂を聞きつけてやってきたお客さん

狭山ちゃりんこが繋いでくれる大切な縁

 

2018年2月に始めた“狭山ちゃりんこ”は、最初の一ヶ月こそ反応は少なかったが、次第にベルの音を聞いたお客さんが家の中から出てきて、声をかけてくれるようになるなど、徐々に認知されてきた。
また、市内を回っている西澤さんの姿を見て、お店にまでお茶を買いに来てくれるお客さんも増えたのだという。

 

取材時、狭山ちゃりんこの営業に同行させてもらうと、西澤さんが小学生の時にお世話になったという“給食のおばちゃん”と10数年振りに偶然再会する場面に立ち会うことができた。『西沢園』から徒歩5分ほどの距離で暮らしているにも関わらず、長年出会うことがなかった2人が、狭山ちゃりんこが縁で再会する。茶縁が繋いだとても微笑ましい光景だった。
また、西澤さんに向かって、車から「頑張れよ!」と声をかける人もいて、入間市民の期待を背負って前に進んでいる西澤さんの背中がより一層輝いて見えた。

給食のおばちゃんと再会

 

お茶のアイスへのこだわり

 

“狭山ちゃりんこ”では、お茶以外にも“茶師のアイス”というお茶のアイスも販売している。
「茶師のアイスは、狭山ちゃりんこをやろうと決めた時に一緒に考えつきました。お茶のアイスを作ることで、多くの人に気軽にお茶を楽しんでもらいたいと思い、お茶と一緒に販売しています」と西澤さん。この「茶師のアイス」は、煎茶、ほうじ茶、和紅茶と3種類あり、それぞれこだわりが詰まっている。

 

「アイスにもお茶本来のコクを残し、煎茶味は煎茶本来の風味だけではなく、ザラザラとした茶葉の舌触りも楽しめるように仕上げています。それがないと本物の煎茶らしさが出ないのであえて入れています」と教えてくれた。
茶師のアイスはテレビでも取り上げられ、売れ行きは好調だという。アイスを食べたお客さんがアイスに使われている茶葉に興味を持ち、茶葉を買ってくれることもあるそうだ。

一度食べたら忘れられない味の「茶師のアイス」

 

「ずっと手揉み茶を続けていきたい」

 

手揉み茶の伝統を守り続ける地域として知られている入間市。西澤さんは長年に渡って継承されてきた手揉み茶づくりにも精を出している。

手揉み茶への情熱は尽きることがない

手揉み茶とは、摘んだ茶葉を数秒から数分間蒸し、40℃~60℃に保たれた焙炉(ほいろ)と呼ばれる台の上で、手で茶葉をほぐす、こねる、揉むなどして、乾燥させて煎茶にしていくお茶のこと。
西澤さんが約7時間かけて作る販売用の手揉み茶は、毎年300gほどしか作れない。
それほど労力をかけてまで作り続ける理由を伺うと「手揉み茶が一番おいしいから。あと、機械で作ると、なぜその味になったのかわからないけれど、手揉み茶は、明確にその理由がわかるところが興味深いです。同じ茶葉を使って、同じ時間かけて作っても、人によって味が変わるんですよ」
全国手揉み茶品評会には毎年出品していて、2017年にその功績が認められ、見事1等5席を受賞した。

 

これからもずっと手揉み茶を続けていきたいと話す西澤さん。
「今は店を大きくしたいとか、二号店を出したいとか、そういう気持ちはありません。お茶を作ることを楽しみながら生活できればいいと思っています」と笑顔で語ってくれた。
西澤さんの自由な発想と旺盛なチャレンジ精神が、狭山茶の新たな可能性を切り開いていってくれると期待したい。

 

【店舗情報】
住所 埼玉県入間市扇町屋2-3-8
電話番号 04-2962-3802
営業時間 8:00〜19:00
定休日 なし
URL http://nishizawaen.com

Editor

  • おおいし ゆりな
  • おおいし ゆりな
    Yurina Ooishi

    人の”思い”を文章で伝えるライター。映画監督、俳優、スポーツを通じた国際展開をしている人物へのインタビューを中心に様々な媒体で活躍している。出身地は茶どころ静岡。お茶を飲み終わるまでが食事という家庭環境の中で育つ。最近は置物と化してる急須だが、お茶に関わる方に触れ合い、お茶を淹れる心の余裕を持ちたいと思っている。

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