仕事中の眠気覚ましにも効果を発揮!
お茶の三大成分「カフェイン」の秘密
- Text by Kazutaka Miura
眠気覚ましに重宝されたカフェイン
江戸時代、お茶は飲むと目が覚めることから「目覚まし草」と呼ばれていました。学徒は勉強に励むとき、僧侶は座禅や瞑想をするときにお茶を飲むことがあったようです。
僧侶は、修行中は睡眠時間を短くするため、坐禅中に眠気が襲ってくることもありました。そんな僧侶にとってお茶の眠気覚まし効果はてきめん。坐禅中の集中力や緊張感を維持するためにお茶が活用されたそうです。
当時、学徒や僧侶たちに覚醒効果をもたらしたのが「カフェイン」の作用だと思われます。
「カフェイン」は、渋味の「カテキン」、甘味と旨味の「テアニン」と並ぶ、お茶の三大成分。お茶に苦味を生み出してくれる大切な成分です。
「カフェイン」はお茶をはじめ、コーヒーやコーラなど、さまざまな飲料や食品の歴史に登場し、いつの時代も社会の注目を集めてきました。
カフェイン発見は文豪ゲーテのおかげ?
カフェインが見つかったのは1819年。ドイツの化学者・ルンゲがコーヒーから「カフェイン」を取り出すことに成功しました。

ルンゲがコーヒーの研究をはじめたのは、『若きウェルテルの悩み』などの小説で知られるドイツの文豪・ゲーテとの出会いがきっかけだと言われています。
ゲーテはコーヒー通としても知られ、「コーヒーには眠気を覚ます不思議な力を持った物質が入っている」と考えていました。
ゲーテはその物質が何なのか知りたいと思い、ルンゲにコーヒーの研究をするように薦めたそうです。この時のゲーテの助言が「カフェイン」発見に繋がったという逸話が残っています。

カフェインが多い飲料は?
「カフェイン」は、茶葉、コーヒー豆、カカオ豆などに含まれている食品成分の一つ。これらを原料につくられたお茶やコーヒーなどの飲料に含まれています。文部科学省は、お茶やコーヒーなどカフェインの入った主な飲料の含有量を発表しています。

お茶やコーヒーのほか、コーラ、エナジードリンク、眠気覚まし用のドリンクなどにもカフェインは含まれています。
文部科学省「日本食品標準成分表2015年版(7訂)」によると、エナジードリンクのカフェイン含有量は、100 mlあたり「32~300mg」。製品によって量に違いがありますが、お茶やコーヒーよりもかなり多くのカフェインが含まれているものがあります。
カフェインの効果
カフェインの主な効果として挙げられるのは「覚醒作用」と「利尿作用」。中枢神経を刺激し、頭が冴え、集中力を高める効果があると言われています。
江戸時代の僧侶たちもこのカフェインの覚醒作用に注目し、眠気覚ましとしてお茶を口にしていました。
また、カフェインが交感神経を刺激することで、腎臓の血管が拡張。血液の流れがよくなり、尿の生成量が増えるため、排尿の量や回数が増加します。
利尿作用のメリットとしては、身体の老廃物が尿中へ排泄されやすくなり、デトックス効果を発揮。健康や美容にプラスに働くこともあるそうです。
その一方で、尿量増加でトイレに行く回数が増えるというデメリットはあります。
「カフェイン」は、そういった効果が注目され、医薬品として処方されるほか、食品添加物(苦味料)として嗜好性を改善したり、食欲を増進させるために用いられています。
カフェイン摂取量の目安
内閣府の「食品安全委員会」はカフェイン摂取量についてこのようコメントを発表しています。
「日常的にお茶を飲むときは、習慣的に適量を飲んでいるものです。この場合、カフェインの過剰摂取で有害な影響が現れることはまずありません。カフェインに対する感受性は個人差が大きいため、健康に及ぼす影響を正確に評価するのは難しく、日本ではカフェインの一日摂取許容量の目安は設定されていないのです」
日本では明確な摂取量の目安は公表されていませんが、カナダやオーストリアなど一部の国や国際機関では、 カフェインのリスクが高いとされる妊婦や子どもに対して、摂取しても問題のない量の目安を設定しています。
お茶に含まれるカフェイン量
お茶はコーヒーに比べるとカフェインの量は少なめですが、煎茶や紅茶、玉露といったお茶の種類、さらには茶葉の摘採時期によってカフェインの量は変わってきます。
「カフェイン」は、チャノキの上部になる新芽に多く含まれ、日光に当たり、葉が成長するのに合わせてカフェイン量は減少。新茶や初夏の二番茶などのお茶の摘採時期において、早い日に摘まれたお茶の方がカフェイン量は多くなります。
一方、日光を遮ることで葉に含まれるカフェイン量は増加。茶畑に覆いをして栽培する玉露や抹茶の原料となるてん茶は、日光を浴びて成長する煎茶よりもカフェインの量は多くなります。
内閣府「食品安全委員会」のカフェイン含有量に関するレポートによると、煎茶100 mlあたり「20 mg」に対して、玉露100 mlあたりは「160mg」と8倍の量のカフェインが含まれていると発表しています。

煎茶の中でも、一般的に上級と言われるお茶、価格が高いお茶ほど、若くて柔らかい芽をたくさん含むので、カフェイン量は多めになります。
また、抽出時にお湯の温度を高めにし、抽出時間を長くするほど、多くのカフェインがお湯に抽出されます。
各国のさまざまな機関がカフェインについて注意喚起を行なっていますが、お茶に含まれたカフェインのリスクに触れた報告は見受けられません。
カフェインを正しく理解し、過剰摂取は控え、体調やシーンに合わせてお茶をお楽しみください。
参考文献
『日本茶全書 生産から賞味まで』淵之上康元・淵之上弘子
『食品を考えよう』食品安全委員会