プロ野球界から日本茶業界へ!
横浜の宇治茶専門店「又兵衛」店主が家族と挑む日本茶販売
- Text byYurina Oishi
「3歳の頃からお茶を飲んでいるので、自分の舌を信じて宇治茶を販売しています」と鋭い眼光を放ち、日本茶販売店としての揺るぎない自信を語ってくれたのは、横浜市保土ケ谷区にある宇治茶専門店『又兵衛』の店主・堀井恒雄さん。
堀井さんは、1887年から続く京都府城陽市の老舗茶農家に生まれ、物心ついた時から茶畑の風景を見ながら、お茶の香りに囲まれ、毎日お茶を飲んで育った。
家には急須、湯のみ、お湯がいつも用意され、お客さんが来たらすぐにお茶を淹れる家族の姿を幼い頃から見ていた堀井さん。いつもそばにはお茶があった。
今回は、宇治茶とともに人生を歩む堀井さんと、その家族のストーリー。

京都の茶農家で育った堀井さんだが、地理的にも宇治茶に馴染みが薄い横浜という地で、どうして宇治茶の専門店を営んでいるのだろう。
実は堀井さんは1980年にドラフト2位で横浜大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)に入団、ロッテでも活躍した元プロ野球選手。現役時代に横浜に新居地を築いたからだ。
自宅から近く、京都にある八坂神社の分霊である橘神社の前という縁起がいい場所にある又兵衛。2014年にオープンしたお店は、堀井さんの奥様である初美さんと、娘の美花さんに支えられ、もうすぐ創業5年を迎える。

「関東の方にも宇治茶をもっと知ってもらいたい」と話す堀井さんに、まずは宇治茶の特長について聞いてみた。
「宇治茶の味の広がりは二段階になっているんですよ。最初口に含んだ瞬間は甘さを感じ、飲み込んだ後には爽やかな苦味と渋みが感じられます。関東には淹れた時に緑色が濃く出て、しっかりとした味のお茶を好む方が多いのですが、実は宇治茶でも、淹れ方次第で色が濃くてほどよい渋さのあるお茶になるんです。意外とそのことを知らない方が多いから、濃くなる淹れ方を教えてあげるとより宇治茶を身近に感じてもらえるんです」と教えてくれた。

堀井さんは、宇治茶の魅力を伝えるために、お客さんの気持ちを汲み取ったコミュニケーションを欠かさない。
「お店にお茶を買いに来るお客様には、どのようなお茶を飲まれていますか? 熱いお湯で淹れますか? 湯のみは大きいですか? など尋ねるようにしています。まずは普段のお茶の飲み方を聞いて、どのようなお茶を紹介すればお客様が喜んでくれるかを考えます」と堀井さん。
現在は店頭だけでなく、お店のウェブサイトからお茶を購入する人も増えてきているそうだが、堀井さんは今でも店頭販売を大切にしている。
「お客さんと対面で話さないと伝えられないことがお茶にはたくさんあるんです」と話す堀井さんに宇治茶の売り手としての矜持が垣間見えた。

又兵衛では1年ほど前から娘の美花さんも店頭に立っている。美花さんは又兵衛のデザイナーとして商品のパッケージデザインも手がけているのだという。
「以前は別の会社で働いていたのですが、横浜又兵衛という新ブランドを立ち上げる時にパッケージをデザインしてもらえない? と両親に頼まれたことがきっかけで一緒に働き始めました。自分がデザインした商品のパッケージがかわいいねと言ってもらえたり、商品が売れたりするとやっぱり嬉しいです」と美花さん。美術系の学校に通い、デザインの勉強はしていたが実際に販売される商品のデザインを手がけたのはその時が初めてだったそう。
「横浜又兵衛の商品をつくる時に、誰にデザインを頼めばいいのか困っていたんです。よく考えたら、こんなに近くに一生懸命にデザインをやっている子がいたことに気付き、娘ならできるんじゃないかと拝み倒してお願いしました」と初美さん。実は、横浜又兵衛シリーズの商品には、初美さんと父の恒雄さんが登場している商品がある。まさに、堀井家の家族愛が詰まった宇治茶だと言える。

美花さんにお店を手伝おうと思った理由について聞くと、「家族なので放っておけませんでした。少しでも力になれるといいなという気持ちが強かったです」とはっきりと答えてくれた。家族だからこそ助け合う。家族だからこそ放っておけない。お店を支えているのは、きっと家族の結束力なのだ。
家族愛に溢れた堀井さん一家は「宇治茶の魅力をもっと知ってもらいたい」という目標を全員が持っているからこそ、同じ方向を向いて歩み続けていけるのだろう。
あえて宇治茶があまり流通していない関東でお店を構えていることも、家族の絆をより深める要因になったのかもしれない。宇治茶の知られざる魅力を、堀井さんのもとで見つけてみてほしい。
店舗情報
住所 神奈川県横浜市保土ヶ谷区天王町1-7-2
営業時間 10:00~18:00
電話番号 045-453-8975
定休日 不定休
公式サイト http://www.matabay.com