「人形町は人と人との距離感が心地よいのです」
下町に根付く中国茶専門店『小梅茶荘』

 

 

人形町駅から徒歩数分、裏通りにひっそりと佇むのは、この地にお店を構えて今年で9年目を迎えるという中国茶のお店『小梅茶荘(こうめちゃそう)』。

 

「お茶をどうぞ」

 

店主の優しい人柄が伝わってくる手書きの看板に誘われて、昔懐かしい引き戸をガラリと開けると、お茶の芳醇な香りにたちまち包まれる。

迎えてくれたのは、店主の小梅さんと、小梅さんのご主人でお店の切り盛りを任されている番頭さん。番頭さんが慣れた手つきで、お勧めのお茶、「奇蘭」のアイスティーを小さな茶杯に注いでくれた。


中国出身の小梅さん。お父様がお茶好きだったので、自分も美味しいお茶を飲んで大きくなったのだと教えてくれた。日本で中国茶のお店をしようと考えたのも、自然な流れだった。2008年、都内のあちこちで店舗を探したが、静かなこの場所が気に入ったという。
「人形町は、人と人との距離感が心地よいのです」と教えてくれたのは番頭さん。「こちらから飛び込むとしっかり受け入れてくれますし、そうでなければ放っておいてくれます(笑)」。お店の2階には大家さんが住んでいて、取材の途中にも三味線の音が心地よく聞こえてきた。

 

お店には60~80種類ものお茶が置かれている。主に取り扱っているのは、厳選された福建省の武夷岩茶、雲南省の紅茶やプーアル茶、台湾の烏龍茶など。

仕入れを1人で担当しているという小梅さんは、年に100日ほどを茶産地で過ごす。最近はSNS等でお茶農家とタイムリーに連絡が取れるため、それでも以前よりは随分効率的に仕入れができるようになったと教えてくれた。小梅さんの「本当に美味しいお茶を」という情熱が、生産者と長年に渡る信頼関係を築き上げてきた。その貴重なお茶のひとつひとつに、番頭さんの丁寧な解説がついている。

とても嬉しいことに、気になるお茶は試飲の相談が可能だ。お店側がこれと決めて試飲を出してくれることはあるが、試飲が相談できるお茶屋さんは、実はなかなかないと思う。「飲んでみないと分からないから」と、小梅さんと番頭さんは言う。お言葉に甘えて、「白瑞香」という武夷岩茶を試飲させていただいた。名前からして素敵なお茶だが、本当にお花かと思うほどの華やかな香りと軽やかな焙煎の風味が口いっぱいに広がり、全身の力が抜けていくのを感じた。

茶葉だけでなく、壁一面に並ぶ中国茶器も本格的なもの。中国の宜興(ぎこう)という場所で採れる土から作った中国の急須、茶壷(チャフー)や、使いやすい磁器の茶器など。どれも高品質のものだが、気になる茶器は手に取って、実際にお湯を淹れてみてもよいと言う。「触ってみないとわからないから」と、おふたりは笑った。



小梅茶荘を訪れるお客さんは、中国茶が好きで遠方から来てくれる人もいるが、ほとんどがご近所さんか、通りすがりの人なのだそう。
「ここは何のお店ですか?」と聞かれることもしばしば。ご近所さんからの要望で作り始めたティーバッグ商品や、水出し用の茶葉。何を買ってよいかわからない人のための親切なお試しセット。小梅さんと番頭さんは、そうした気遣いを欠かさない。開店当初はお客さんが少なく、お店の存在を知ってもらおうと近所でお茶をふるまって歩いたという。「中国茶を知らないお客さんだからこそ、本当に美味しいものでないと買ってくれないと思うんです」と当時のことを思い出しながら小梅さんが思いを語ってくれた。

 

 店内の茶葉で2つだけ、小梅茶荘のオリジナルブレンドがある。それが「人形町」と「小梅茶荘」だ。この2つの商品だけは、どんなに原材料や人件費が高くなっても、当初から値段を変えていないのだという。そのお話に、おふたりの、「人形町のお茶屋さん」としての信念が垣間見えた気がした。

小梅茶荘から徒歩5分ほどのところに、「茶ノ木神社」がある。小梅さんが仕入れの旅に出る前には、無事を祈願してお詣りするのだと教えてくれた。境内には名前の通り茶の木があり、5月には献茶祭イベントが行われる。小梅茶荘を訪れた際には、ふらりと立ち寄るのもいいだろう。

店舗情報
住所 東京都中央区日本橋人形町2-32-13
営業時間 10:00〜19:00
定休日 日曜
公式ブログ https://teachina.exblog.jp

Editor

  • 田中 友美
  • 田中 友美
    Yumi Tanaka

    TEAスタイリスト。学生時代、北京留学をきっかけに中国茶に傾倒。大学卒業後、上海にて3年間勤務。世界の茶産地への旅をライフワークに中国茶をメインとしたイベントの開催や茶葉・茶器の販売などを行う。お茶を囲むことで生まれるご縁「茶縁」を大切に活動している。

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