日本茶シーンに新風!クリエイティブ集団が仕掛けるプロジェクト『VAISA』とは?

「価値ある時間を大切に」というコンセプトのもと、現代の若者に向けて日本茶を熱く、そして愉快に届けている個性的な日本茶プロジェクト『VAISA(バイサ)』が注目を集めている。
仕掛けているのは、東京を拠点に様々な分野で活躍する20代後半から30代前半のデザイナーやクリエイター7名が集まり活動を続ける「sinden」だ。今回はそのメンバーに話を聞いた。

写真左から大門祐輔(デザイナー)、成田芙美(ディレクター) 、郡司淳史(ディレクター)、苅込宗幸(プランナー) 、長濱啓太郎(スタイリスト)

「若者にもっとお茶を手にとってもらいたい」
VAISAという名前は、煎茶文化の始祖とも呼ばれる”売茶翁(ばいさおう)”に由来しているという。売茶翁は江戸時代中期に京都を中心に煎茶を売り歩き、禅の教えを説いた禅僧だ。それまでお茶を飲まなかった庶民に煎茶を普及させたことでも知られている。

 

「当時、売茶翁は禅の教えを広めるために茶を配り全国をめぐったそうです。売茶翁にとっての禅が僕らにとっては“時間”なんです。VAISAを始めたきっかけは、日本茶に関わる仕事をしている知人から、茶葉でお茶を飲む人が減っているという茶業界が抱える課題を解決できるような面白い取り組みが一緒にできないだろうか?と相談を受けたことでした。お茶に馴染みの少ない20代や30代が、もっとお茶を飲むような導線を作ることができれば解決に繋がるに違いないと思いました。でも僕たちがお茶を単純に売っても、パッケージをかっこよくしたとしても、お茶を手にとってもらうことは難しい。若者に響くものは何だろうと考えて出した答えが、”お茶が生む時間の価値や大切さ”を伝えることでした。その時間が魅力的であればきっとお茶を手にとってくれると思いました」と郡司さんはVAISA設立当時を振り返る。
そのような想いを抱き2016年にスタートしたVAISAは現在、現代版の売茶翁のごとく東京を中心に各地を回り、若者に支持される人気アウトドアブランドやアパレルブランド、ホテルといった異業種とのコラボレーションイベントを開催し、普段あまりお茶を飲まない若年層と交流をはかり、お茶を届けている。

東京・東日本橋のホステル「CITAN」で開催された音楽イベントにて
東京・原宿の「THE NORTH FACE STANDARD」にて

 

茶ハガキが生む新たな価値

VAISAは商品を”お茶”としてではなく、”茶ハガキ”という形で販売している。茶ハガキは茶葉が入ったハガキで、切手を貼り投函すると茶葉を贈り物として郵送することができる商品だ。「価値ある時間を大切に」というコンセプトを背景に、茶ハガキにすることで、お茶を飲みものとしてだけでなく、豊かなコミュニケーションを生むための有効な手段としても提案している。

静岡県産の「里のお茶」、「山のお茶」、「森のお茶」は茶葉10g入りで380円(税込)

「商品開発にあたっては、古くからあるモノを大切にしながらも、世の中にないモノを作りたいという想いが強くありました。さらにお茶を飲まない人であっても興味や関心をそそられるモノは何だろうかとみんなで考えた末、着目したのが日本に昔からあった茶ハガキでした。誰かに想いを届けたいときやメッセージを送りたいときに、スマホを使えば簡単にできますが、手紙を使う場合は書く時間をあえてとることになるますよね。その時間の中で、その人への想いをはせたり、その人との思い出を振り返ったりします。その結果、茶ハガキで気持ちを伝えようとすることで時間に新たな価値が生まれるんです」と大門さん。

 

そして、VAISAの茶ハガキは遊び心が満載だ。
定番シリーズの『STANDARD GREEN TEA / ILLUSTRATION』では、売茶翁をモチーフにしたオリジナルキャラクターのバイサ君がスキーやサーフィン、キャンプをしている様子が描かれている。日本の伝統文化を意識しながらも現代的な感覚を取り入れ、送る方も受け取る方も笑顔になるようなデザインだ。

 

福岡県産うきは茶を詰めた極上煎茶は、10gの茶葉が入って680円(税込)

「anytime anywhere chao!」
「茶ハガキを送る人はお茶を送る時に、もらった人はお茶を淹れる時にお互いのことを考える時間が生まれるのではないでしょうか。お茶を淹れるというのはある程度の時間を要することですよね。効率ばかり追い求めがちな現代社会において、そのちょっとしたひと手間ってとても大切で素敵な時間だと思うんです」と長濱さんも言葉を加えた。
そんなユニークな茶ハガキには「anytime anywhere chao!」というメッセージが書かれている。「イタリア語の挨拶”chao!”と日本語の”茶を”をかけあわせ、“いつでもどこでもお茶を!”“どこででも挨拶しようよ!”という2つの意味を込めています。誰かとの日々のちょっとしたコミュニケーションを大切にし、お茶を飲むことが、私たちの日常を豊かにする重要なものだと思います」と成田さん。

VAISAの出店ブースには自然と若者が集まってくる

中身の茶葉は、ティーパックタイプはなく、敢えてリーフ(茶葉)タイプになっている。それゆえ、急須やティーポットといった道具を使うというひと手間が欠かせない。
「ティーパックで淹れるお茶とは異なる”奥深さ”や”美味しさ”を感じてほしいのでリーフタイプを使っています。イベントでは時間をかけてでもしっかりと急須でお茶を淹れています。お茶を淹れている間にお客さんと会話をすることが多いのですが、お茶はその味だけでなく、淹れる時間にも味わいがあると感じます。数分間の出来事ですが、お茶を急須で淹れることでお客さんとの距離が縮まり、少し深い話もできるようになったりするんです。イベントではそのようなお客さんとの時間やコミュニケーションを大切にしています」と苅込さんは笑顔で語る。

現在、VAISAは静岡茶、埼玉の狭山茶、福岡のうきは茶を中心に扱っているが、今後はラインナップを増やし、他産地のお茶も扱う予定があるという。さらに売茶翁のように全国を巡り、「価値ある時間の大切さ」とともにお茶の魅力を伝え、VAISAの活動が茶業界や日本社会のためになることを目標に掲げる。VAISAのこれからの取り組みにぜひ注目してほしい。

 

●VAISA

http://vaisa.jp/

https://www.instagram.com/vaisa.jp/

 

●sinden.inc

https://sinden-official.tumblr.com/

https://www.instagram.com/sinden_inc/

Editor

  • 千尋宮崎
  • 宮崎 千尋
    Chihiro Miyazaki

    ライター。静岡県出身。お茶どころで生まれるも、緑茶はほとんど飲まない幼少期を過ごす。高校生の時に、山田南平さんの漫画『紅茶王子』( 白泉社)がきっかけで自分でもお茶をいれるようになると、その魅力にハマる。今では、家でも外でも、リラックスするのにお茶が欠かせない。夢は、スリランカの茶葉農園で絶景を眺めながら、できたてのお茶を飲むこと。

Next

2018.04.13

「手仕事の器とともに暮らす豊かさを伝えたい」器と暮らしのもののお店「KOHORO(コホロ)」