嬉野の若手茶農家たちが牽引!
嬉野茶の魅力を発信する革新的プロジェクト「嬉野茶時」とは?

佐賀県南西部に位置する嬉野市。山々に囲まれた大地に雄大な茶畑が広がるこの町に、中国からお茶がもたらされたのは1440年頃。明の陶工が嬉野に移り住み、茶を栽培したのが嬉野茶の始まりと言われている。1504年頃には同じく明からやってきた陶工が、嬉野に南京釜を持ち込み、当時の中国において最新の製茶手法だった釜炒り茶の製茶技術が伝わり、嬉野の茶作りに新たな潮流が生まれた。それから500年余り。江戸、明治、昭和という激動の時代を経て、嬉野茶に新たなムーブメントが起きている。

嬉野市内

若手茶農家たちが主役に
ことの始まりは2016年8月。嬉野の地で何百年もの間、脈々と受け継がれてきた伝統文化である嬉野茶、肥前吉田焼、温泉という3つの文化を融合させたイベント「うれしの晩夏」が、昭和天皇も宿泊した老舗温泉旅館の和多屋別荘を舞台に開かれた。
会場には嬉野の若手茶農家7人が白服を纏い、丹精込めて育てたお茶を自らの手で淹れ、接客まで行う上質な喫茶空間「嬉野茶寮」が出現。7人は、旅館やレストランの経営者といった地元のサービスのプロ達から所作やおもてなしについて事前に学び、このイベントに臨んだ。そこで披露された7人の洗練されたパフォーマンスと、嬉野茶の新たな表現は参加者に大きなインパクトを与えた。さらに注目を集めたのが一夜限り、16席限定で開かれた「嬉野晩餐会」。そこでは、肥前吉田焼ブランド「224porcelain」の辻諭さんが、その日のためだけに製作した器を贅沢に使い、気鋭の茶師として知られる松尾俊一さんが作った最高級のお茶と、料理人の木島英太朗さんによる料理が贅沢に振る舞われ、3人の才能が集結したその宴もまた反響を呼んだ。

「うれしの晩夏」で披露された茶農家のパフォーマンス(写真提供:嬉野茶時)

このイベントを主催したのが「嬉野茶時(うれしのちゃどき)」。嬉野で継承される伝統文化を重んじながらも、時代にあった切り口で嬉野の魅力と伝統を後世に伝えるプロジェクトだ。嬉野茶を軸に斬新なアイデアで四季を表現し、「食す」「飲む」「買う」「観る」の体験ができる数々のイベントを企画している。

写真提供:嬉野茶時

嬉野の未来を担うメンバーが集結
嬉野茶時の発起人は、和多屋別荘の小原嘉元さん、創業180年の歴史を誇る旅館大村屋の北川健太さん、嬉野で4代に渡って茶作りを営む副島園の副島仁さん、そして嬉野の母の異名を持つ鈴木暁子さんの4名。嬉野で旅館を経営する小原さんと北川さんの「新しい切り口で嬉野茶に新たな価値を生み、嬉野茶の存在感を高めたい」という想いをきっかけに、小原さんの同級生である副島さんが加わってプロジェクトがスタートした。
メンバーは嬉野で生まれ、嬉野で育ち、今も嬉野に住み、地元を愛する30〜40代の若い世代が中心。嬉野茶の未来を担う若手茶農家や茶師、肥前吉田焼の陶芸家、料理人、菓子職人、酪農家など、その顔ぶれは様々だ。みな嬉野茶時の理念や活動に共感し、有志で集まり、現在は30〜40名ほどが名を連ねる。
発起人である小原さんと北川さんは嬉野茶時設立時からメンバーと密にコミュニケーションをとり、意見が食い違えばその都度じっくりと対話してきた。中心メンバーの若手茶農家の茶園にも何度も訪れ、話し合いを重ねてきたという。そのようにして生まれたチームとして結束力が、嬉野茶時の活動を支えてきた。

嬉野茶時のメンバー(写真提供:嬉野茶時)

嬉野文化を融合しチャレンジし続ける
嬉野茶時の合言葉は「やっちゃえ嬉野」だ。その言葉を表すように設立当初から常に新しいことにチャレンジし、いい意味でとんがり続け、多くのイベントを生んできた。2016年秋は、“茶に始まり、茶で終わる、嬉野の最高峰のホスピタリティ”を提案する「フレンチ茶会」を開催。茶師が厳選した最高品質の嬉野茶、肥前吉田焼の器、フレンチ料理を融合させた繊細かつ大胆な宴となった。2017年秋の「一茶一菓」では、3人の茶師と3人の菓子職人がペアを組み、嬉野茶と菓子の究極のマリアージュを提案する食事会を開くなど、季節に合わせた企画を1年通して催し、嬉野文化の魅力を継続して発信している。

秋をテーマにお茶とお菓子が振る舞われた「一茶一菓」(写真提供:嬉野茶時)

2018年2月には、東京・ANAインターコンチネンタルホテル東京にて3日間に渡りイベントを開催。同ホテルの日本料理店「雲海」で特別賞味会「嬉野茶時 in 雲海」が開かれ、7 名の若手茶農家が、斬新なお茶の淹れ方の実演とともにティーセレモニーを行い、雲海料理長によるお茶を使った独創的な料理と合わせて参加者をもてなした。

ANAインターコンチネンタルホテル東京で開かれたティーセレモニー(写真提供:嬉野茶時)

茶農家が表現する新たな嬉野茶の世界
嬉野茶時は、嬉野各所に茶室をつくり、嬉野を訪問する人の心と身体を癒す空間の創造を目指した「茶花(ちゃばな)プロジェクト」も展開している。2017年3月に副島園の茶園の中に「天茶台」が設置された。2018年1月には肥前吉田焼の副千製陶所の敷地内にあった物置小屋を改修し、「吉田茶室」が誕生。さらに嬉野茶時メンバーの農園に3つの茶室が新設される。新茶の季節が始まる春にはそれら茶空間で極上の嬉野茶が味わえるはずだ。

美しい茶畑が望める天茶台(写真提供:嬉野茶時)
2017年5月に天茶台で開催された新茶会(写真提供:嬉野茶時)
副千製陶所の「吉田茶室」で開かれた茶会(写真提供:嬉野茶時)

2018年、嬉野茶時は活動の幅をさらに広げ、いくつもの新しい試みが控えている。東京・日本橋の高級ホテル「マンダリン オリエンタル 東京」では、2018年3月15日(木)から4月27(金)までスペシャルイベントが開催される。東京で嬉野茶時のイベントを体験できる貴重な機会だ。さらに春以降にはJTBと連携した嬉野ツアーなども予定されているという。
若い世代が主体となり新しいムーブメントを生み続け、未来を見据え、日本茶の価値向上を目指す嬉野茶時。その動きから今後も目が離せない。
そして、嬉野茶時のビジョンと活動は、他地域で進められている日本茶の普及プログラムや、お茶を通じた町の活性化プロジェクトにおいて参考になる部分があるかもしれない。ぜひ嬉野に足を運び、嬉野茶時が描く世界を五感で味わって見てほしい。

 

公式サイト
https://www.ureshinochadoki.com

 

ECサイト
https://www.ureshinochadoki.shop

 

Editor

  • 三浦一崇
  • 三浦 一崇
    Kazutaka Miura

    NewTitleディレクター。雑誌編集者として5年、PR会社で広報マンとして3年、メディアの仕事に携わってきた経験を生かし、ジャーナリズム精神を忘れず、お茶のおもしろいことを発信中。

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